『視点 vol.1 Re:TRANS』各俳優賞のコメントです

引き続き各俳優のコメントの発表です。この賞は、観客のみなさまに「主演男優」「主演女優」「助演男優」「助演女優」の4つアンケートの投票を行って頂き集計して、審査員のみなさまと審議致しました。結構みなさんそれぞれハードな役だったらしく、コメントの熱さと近影とのギャップが微笑ましいです。気になる俳優の方がいましたら、是非追いかけてみてください!(進行・主催:ハセガワアユム)

最優秀主演男優賞:今里真

「今里です。非常に驚きつつ、受賞の知らせを受けました。達者な役者さんばかりでしたので尚更です。大変励みになります。これも素晴らしい脚本、演出、役を下さった鵺的の高木さん、一緒に作品を作ってくれた平山さん、宮嶋さんの力があってこそでした。アユムくんをはじめ、視点関わった皆様、観に来て下さった全ての方に感謝を込めまして、ありがとうございます!あ、えらく固いコメントになってしまった(苦笑)」

─── 全然いいんですよ!トップバッターですから多少固くても(笑) ビシッと決めて頂きありがとうございます。ぼくも今里さんは何度も舞台で拝見してますけど、いままでで一番好きでした。強さと弱さが同じ分量で同居してました。あの役のなかで好きな台詞とか印象的な台詞を教えて頂けますか?

「『その汚らわしい口を閉じろ』ですか。高木さんの演出になかなか応えられず、随分稽古しました。一生に一度言うか言わないかの台詞ですしね(笑)」

─── (笑)一度でも言わないですよ!どんなプライベートですか。

「こういう女性に攻撃的な役は初めてでしたし、普段もそういう所が無いので、なかなか戸惑いがとれませんでした。」

─── いやいや、そうですよね。

「蹴ったりする稽古の後は宮嶋さんに謝りまくってました。」

─── わわわ。

「正直後半は楽しくなってしまいましたが・・・」

─── ふふふ。宮嶋さんも同じようなことを仰ってたので、おふたりで新しい境地に舞台上で行ってたんだと思いますよ。おめでとうございます!


主演男優賞:杉木隆幸

─── 今里さんと僅差で競っていまして集計しながら、こちらも盛り上がりました(笑)

「選んで頂いてありがとうございます。こういうものを頂くのが初めてですが、やっぱり一緒にいた5人で選んでもらったのだなぁ、と思います。」

─── 好きな台詞とか、印象的な台詞ってありますか?

「(自分の役の)後藤の「光がなくてもそれでもいいの?」が好きでした。力ない切り札でした。」

─── ああ、まさにあれは力ない切り札でした。いいな、そのワード。使わせて頂きます。では役づくりとかで印象深いことありますか? 演出を担当した僕は、杉木くんとはおつきあい長いけど、こんなに深く「役について」ギリギリまで追いかけたことはなかったので感慨深いんですけど。

「たまに作家さんや漫画家さんが「キャラクターが勝手に動き出した」なんて言うのを聞きますが、ずいぶんそれに似ているんじゃないかと思ったりします。僕が教えて欲しいところでもあります。」

─── ああ、後半、もう無我夢中のとき、そういう瞬間たくさんあったね(笑) おめでとうございます!


最優秀主演女優賞:宮嶋美子

─── 審査員のみなさまのなかでも、俄然興味と注目が集った受賞になります。奴隷と罵られる、すごい役でしたね。

「ありがとうございます。「視点」はチーム別の創作で投票があるということで、いつもの公演とは違う緊迫感に満ちていて、でもおかげで良い刺激を受けた公演でした。他チームの出演者とも、共演者以上の絆が芽生えたように思います。この受賞が「えー」って言われないように今後精進します!演劇コンペティション「視点」が第2弾、第3弾…と続くことを願っています。」

─── 印象的な台詞とか教えてください。

「『そんなに私の声が嫌なら私は一生しゃべりません』。この台詞が一番奴隷っぽいでしょう。」

─── 確かに(笑)

「しかも言い終わらないうちに今里さんに怒鳴られるというのもまたいいなと。」

─── 役づくりについても秘密などありましたら。この公演の前が女子高生だったとこともあり、その切り替えに驚きましたが。

「2010年は色んな公演に出演する機会があったので、「振り幅」を個人テーマにしていました。一作一作、全く違う人になりたいな、と。そこで「視点」では鵺的の高木さんに「濃厚なの、お願いします」と言ったのですが、まさかあんなことになるとは(笑)」

─── NGがないって逆に高木さんが驚かれてました。

「普段の自分とは真逆な女の役だったので結構苦戦しましたが、床を這いずり回ることに快感を見出してから少し作りやすくなりました。」

─── 新感覚ですね。あれは、登場人物にある共犯関係の裏側が気になって、ずっと目で追っちゃいましたからね。おめでとうございます!


主演女優賞:秋澤弥里

─── 自分が演出してたから尚更なんですど、あの役はすごい大変な役だったから報われた形になってよかったですよね。

「ありがたい限りです。本当にありがたいです。でもこの視点に参加出来たこと、アユムさん指揮の下、“無い光BAND”仲間3人とやれたこと、ミナモザチームや鵺的チームと出会えたこと、それだけで十二分。それがもう賞です。」

─── あ〜かっこいいなあ。

「あれ?賞を頂いた喜びを語ってないっすか?ダメっすか?」

─── いやいや充分、伝わってますよ(笑) では、好きな台詞とか教えてください。

「『そんな胸がちょっと痛くなるくらいであたしの邪魔しないでよ!』と『みんなどうでもいいひとになっていくのに』。この二つは言っていて少し胸の痛くなる台詞でした。言いながら自分が言われている気分になる台詞。」

─── うーん、自分で書いておいて結構キツい台詞ですよねえ。でも身に染みる台詞はきっと良い台詞だと思って書いてるのでよかったです。

「逆に爽快な気分になる台詞だったのが『目つぶってればすぐ終わるし』。実にイイ!!(笑)」

─── はははは。女の子の気持ちをおじさんが代表して書きました。役づくりについても教えてください。

「分かり易いところで言えば、狂言ではなく本気で自殺をしたくなるという人の気持ちが分からず、ネットで『自殺 遺書』とか検索してみたりしてました。そしてひたすら遺書を読んだりしてました。すっごい暗い気分になりましたね。でも結果、多分(役である)理英は違うんだなーと『お買い物に行ってくるよ』みたいな感覚なんじゃないかなーとそういっためんどくさい事は放棄しました。」

─── そういう話もしましたよね。死が対極にあるんじゃなくて、並列にある人ってたぶんそんな感覚だから、一周しマッチしてたと思います。

「で...よく分かりません。」

─── えー!(笑)

「ただみんなに引き出してもらっていたなと思います。」

─── 人の本音ってそうやって出てくる部分もあるから正解ですよ。受賞おめでとうございます!


助演男優賞:平山寛人

─── 非常識な設定に、脇からスッとナチュラルな演技で常識をぶつけている、そんな有機的なエフェクトがあったと思います。

「栄えある賞をいただき、とても嬉しく思っています。高木の脚本と、共演した今里くんと宮嶋さんあっての受賞で、自分はなにもがんばってません。」

─── そんな、コメントまで脇に回らなくても(笑)

「省エネな演技を心がけたぐらいです。環境に優しい芝居で、これからも小劇場界を席巻しようと思ってます。」

─── おお、かっこいい言葉。戴きます! お好きなシーンや台詞など教えてください。

「史直(自分)が木谷(今里)に、共通のゲイ仲間の雄介が女とヤったときの体験談を語るとこは好きです。」

─── あ、あそこはぼくも好きです。女を抱くために、その女は元男なんだと思い込むために「魔法にかけられて変身した」とかいう設定が出て来て、高木さん流のユーモアですよね。 ちなみに役づくりなど、気をつける事はありましたか?

「主演のつもりでがんばりました!」

─── 平山さんのそういうところ、大好きです(笑) おめでとうございます!


助演女優賞・観客投票賞:金沢涼恵

─── 「助演女優賞」も決定なのですが、もうひとつお客様のアンケートで一番投票が多かった「観客投票賞」とのW受賞です。愛されキャラです!

「ありがとうございます!お客様からの投票でいただけたことがとても嬉しいです。観客席と近いあの空間で生まれたグルーブ感が忘れられません。演劇で投票ってなんだか不思議ですね。競い合うことでお互いに高めあえたように思います。この機会をあたえてくれた「視点」の皆様に感謝!」

─── 好きな台詞とかありましたら教えてください。

「後藤の「中3だから!それが全てだから!」。理由は、たぶん誰にでも心当たりがあるのではないでしょうか。中学のころ特有のこの思考。痛いところ突かれました。笑いながら泣きそうになります。」

─── 御自身の朝子役のなかではありますか?

「朝子の台詞の中でしたら、「理英のことが?ほう?!…ほう?!」。次の後藤のセリフでもありますが、何だろうこの煽りは。初めて声に出して読んだ時の衝撃がすごかった。ここでは「ほう」以外はもう考えられません。」

─── 好きなら告白しろって促す台詞が「ほう?!」ってあり得ないですもんね。これは是非ナマで聴いて戴きたいシーンです。 また役づくりなどで苦心したところなどありますか?

「演じた朝子が22歳の役だったのでその当時の自分を思い出してみました。劇団に入りたてで仕事も良く分からないし、自信もないし、でもなんか勢いがあって怖いもんなしだったかなとか・・・。朝子の世の中きれい事ばかり言ってられないのは分かるけど、それに染まりたくないといった部分を大切にしました。」

─── いや、それがまさに朝子ですよね。本当におめでとうございます!


"視点"女優賞:木村キリコ

─── "視点"ならではの賞で「本役もよかったけどまた違った面も観てみたい!」という欲張りな賞です。

「演劇やって賞を頂くのが初めてなので、緊張しっぱなしです。嬉しいです。こんな機会をくださったハセガワアユムさん、審査委員のみなさま、ご観劇くださったお客様、共演者の皆さん、瀬戸山美咲さん、ありがとうございました。」

─── 女医というクールだけど一途過ぎて壊れてる、そんな大変パワーのいる役でしたが、印象的な台詞とか教えてください。

「『心の病気はね、脳の病気なの。それをさ…どいつもこいつも病気になりたくて仕方ないんだよ』です。この女医のプロフェッショナル魂を炸裂させる台詞で、この台詞が理解できたとき、私はこの人が少し好きになりました。」

─── ああ、やっぱ地のキリコさんとはもちろん違いますもんね。役づくりも大変でした?

「セクシーでかっこいい、イカれた精神科医という役どころを掴むまで、時間がかかってしまいました。かっこいい役だから姿勢をよくしていようと気をつけていたら、少し痩せて嬉しかったです。」

─── (笑)マックのキーホルダー集めてるよいう情報は僕の耳にも入って来てましたよ。役づくりダイエットって素敵です。ルデコの、あの距離って逃げ場が無いじゃないですか。だからより凛とした佇まいが光ってましたよ。今度やられる次の舞台では、どんな役かわかったらすぐ教えてください。追いかけますので。受賞おめでとうございます!

審査委員プロフィール



手塚宏二(てづかこうじ)◆こりっち(株)所属演劇コラムニスト

早稲田大学政経学部中退。70年代に早稲田大学演劇研究会で演出を担当。その後、ラッパ屋、キャラメルボックス等の人気劇団を生んだ早稲田大学学生劇団てあとろ50’を創設。現在はこりっち株式会社でCoRich舞台芸術!を担当。CoRich舞台芸術まつり!審査員。大学演劇評論家シアターグリーン学生芸術祭、CoRich賞審査員なども兼任。
演劇サイト CoRich! http://stage.corich.jp/ CoRich手塚の『小劇場応援ブログ!』 http://coblog4.corich.jp/play/

「手塚さんには演劇、小劇場に対する圧倒的な"愛"を感じます。CoRIchというサイトは2006年末に、僕がちょうどMUを始めたのと同時期くらいにスタートされて、いままで匿名すぎて無責任な一行レビューやバラバラだった口コミを、あっという間にひとつの形にアーカイブされた衝撃のサイトです。そうなる根底にはやはり大きな"愛"が真ん中にあるからで、手塚さんのblogやお話をお伺いしててもその愛と紳士的な語り口で、演劇の間口が広がっていく感触を感じます。(主催・ハセガワアユムより)」



水牛健太郎(みずうしけんたろう)◆ワンダーランド編集長

1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。大学卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。

ワンダーランド http://www.wonderlands.jp/

「小劇場演劇、ダンス、パフォーマンスのレビューマガジン「ワンダーランド」は、評論の少ない現状のなかで定期的に更新をしていてる力強いサイトです。長い歴史のなかで最近はまた新しい企画が増えて、3人の対談形式の”今月のオススメ”や、僕もたまに参加させて戴いたりする”初日クロスレビュー”など充実しております。そんななかで編集長である水牛さんの視点は非常に個性的な発言が多くて、今回登場した直筆の「絵」も、是非ワンダーランドにも掲載しても面白いのでは?と思うほどです。(主催・ハセガワアユムより)」



カトリヒデトシ(香取英敏)◆劇評家・PULL主宰・(株)エムマッティーナ主宰

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
演劇サイト「PULL」 http://pull-top.jp/ カトリヒデトシ.com http://www.katorihidetoshi.com/

「30年に渡る時代をアーカイブ出来るほどの観劇歴と、新しいものも柔軟に価値を見いだして行く姿勢は、主宰する演劇サイト「PULL」にも現れていて、youtubeUstreamなどでのインタビューや生中継を積極的に行うなどとてもアクティブです。劇評マガジン「ワンダーランド」での連載でも、批評では普段クローズアップされにくい"俳優"に焦点を当てた発言が多いので、俳優陣は密かに喜んでおります。あとちゃんとポイントを掴んでいる爽快な笑い声も好きです(笑)(主催・ハセガワアユムより)」

『視点 vol.1 Re:TRANS』各俳優賞の発表です!


大変お待たせしました!本当にお待たせしてすみません。議事録自体は校正が終わっていたのですが、各俳優のコメントを戴くのをみっちりやっておりました。この賞は、観客のみなさまに「主演男優」「主演女優」「助演男優」「助演女優」の4つアンケートの投票を行って頂き集計して、審査員のみなさまと審議致しました。カトリヒデトシさんは王子小劇場主催・佐藤佐吉賞でも俳優をクローズアップしている方で、審査員のみなさま、観客のみなさま、それぞれの着眼点が面白く白熱しました。(進行・主催:ハセガワアユム)

手塚:主演男優は今里さんと杉木さんで迷いまして、今里さんにしました。女優も宮嶋さん、秋澤さんと迷いまして、宮嶋さん。あのいじめられかたがいいんですよね。そして、金沢涼恵さんは助演。「逆」は木村キリコさん。

カトリ:男優は今里くんがよかったな。風貌や佇まいが魅力的で、素ではイケメンって部類にはいるかどうか、微妙だけど舞台の上ではカッコいいんだよね。パラドックス定数のときの早回しもよかったし、こちらのじっくりしたのも出来るし。二番目は杉木くんがよかったかな。茫洋としているなかにも芯があって。ライターのプロとしての大人の顔と、さっきいった中3の恥ずかしがる台詞のギャップがすごくよかった。

女優は主演とか助演とかおいておいて、金沢涼恵ちゃんが一番よかったっす。ここんとこ本当伸び盛りで。前回のクロムモリブデン(『恋する剥製』)でもいい芝居をみせた。

手塚:キリンバズウカ(『ログログ』)もよかったですよね。

カトリ:二番目は木村キリコさんかな。「(骨を)折ってやる!」とか「理由は無い!」とか言いきる力強さがよかった。本人も台詞で言っている通り「根拠は無い」のに断言する力強さが魅力的で、違う役も観てみたいと思った。ミナモザは過去数回観てるけど、ああいう激情型の役は出て来なかったから、それも珍しかったけど。「逆」はバジリコの武田君。これはアユム君への要望(笑) バジリコで普段やってるようなコメディリリーフ的な役もいいけど、あの人はもっとうまいからシリアスな役を振って欲しいんだよね。せっかく客演なんだから。

水牛:わたしは平山さんが一番良かったですね。「はな」がいいですね。

─── 華ですか?

水牛:あ、「鼻」ですね。

─── そっちのですか?(笑) 

水牛:象徴的で。物語にリアリティを運んで来る。

カトリ:水牛さんはそういうマテリアルとかに注目するよね。

水牛:次は杉木さんですかね。カトリさんの仰る通り二面性が際立ってました。女優は宮嶋さん。普段はどんな役をやっている方なんですか?

─── 前は風琴工房という劇団に所属されていて、はつらつな少女の役とかだった演じていた気がします。なので、ああいう役は初めてなんじゃないですかね。高木さんのコンセプトはそこだったみたいですし。

手塚:劇団競泳水着の公演(『女ともだち』"視点"の二ヶ月前に上演)では、女子高生だったからすごいギャップでした(笑)

水牛:あと金沢さんですね。エネルギーが出ているのと、『無い光』には全体的に30歳くらい独特の疲れ方があって、そこがよかったんですけど。そこにひとり、一世代若い子がいることで、非常にアクセントになっているという存在感がよかったです。

─── 彼女は、この間のクロムモリブデン(『恋する剥製』)でも女子高生の役をやっていたんですけど、どの役の年齢でもしっかりと嘘が成立してますよね。

水牛:そうですね。それと「逆」は木村キリコさん。初日の終演後にやったオープニングパーティーで彼女を見たとき、歩き方や佇まいがカッコいい人なんですよね。なのでミナモザで普段やっているという、おっとりした役も観てみたいですね。

─── また観客からの投票を含めて秋澤弥里さんもポイントが高くて、審査員のみなさまからコメントなどをもらえると。

手塚:演技に深みと独特のコミカル感もあり、それら全てがチャーミングでした。

カトリ:「あたしは自分の体験が大事過ぎて吐き気しそう」って時の、作り替えた「記憶」にとらわれ、こだわる顔がファナティックでとても印象に残ってます。単なる可愛い子を遙かに超えていてよかった。

水牛:この役の繊細さとエキセントリックさをうまく表現していたと思いました。きれいな方でしたね。

─── わわわ、ありがとうございます。ファナティック(狂信的)って言葉、響きますね。

[〆]



審査結果はこちらです!↓

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MU『無い光』について(審査議事録)


脚本・演出:ハセガワアユム(MU) 出演:秋澤弥里・杉木隆幸・武田 諭(バジリコFバジオ)・金沢涼恵(クロムモリブデン
□あらすじ□ 臨死体験ルポを連載しているライター・後藤(杉木隆幸)は、中学校の同級生である修造(武田諭)と、同じく同級生のイラストレーターとして活躍する理英(秋澤弥里)を取材するため再会を果たす。しかし、後藤のアシスタント・朝子(金沢涼恵)は、理英の臨死体験は掲載に相応しくないと抗議する。

カトリ:さあ、みんな悪口言おうぜ。

全員:(笑)

手塚:MUは「作品全体」がよかったですね。お世辞じゃなくて、僕はMU、すごくよかった。ただ初日、すごいお客さんがウケていたんだけど、他の日もずっとあんな感じだったの?

─── いや、初日はちょっと…ウケ過ぎですね(笑)僕的にもちょっと自分の手を離れたところで笑いが起きてるなって所もあったし、水牛さんがワンダーランドの劇評で触れていましたけど「ライターがどういう動機かが伝わらなかった」と感じたのは、作者としてはちゃんと書きこぼしてはいないしおかしいな、って思ってたんですけど。それはたぶん初日は笑いに消されちゃったってところもあるんですよ。結構大事なシリアスなシーンでも笑いが起きていたので(笑)次の日からは自然と絞られて行くんですけど、ただ初日はバーストし過ぎましたね。

手塚:僕もそう思った(笑)面白いんだけど、ここまでウケてしまうとコントじゃないんだからと。

─── 笑い自体はすごい嬉しかったですけど。ただ、テーマも「自殺」ですからね…

手塚:だけど全体の作品としてもまとまっていたというか、他の二作品は長編のなかの断片を取りあげたように感じたんだけど、MUは充分、完結してると。やっぱり短編づくりに馴れてらっしゃるんだな、と。印象に残った台詞は、やっぱり「光は無いけど、楽になりたいの?」など「光」なんですね。ただ「光」という単語は前半から沢山出てくるのでもうちょっと押さえても、メインテーマとしても活きてくるんじゃないかと。

カトリ:仰る通り。題名が直接すぎてそこは駄目(笑)

─── え〜と…落語のサゲみたいに、「そういう意味か」ってなるのを狙ったんですけど(笑)

カトリ:まあ、臨死体験の話は面白かったし勉強したんだなって思ったんだけど「中学校の屋上の話」っていうのが、これがなんとも鴻上さんティストでね。鴻上オマージュとしてはこれが一番バカウケした。屋上が出て来たとき。『トランス』だけじゃなくて、鴻上世界に対するオマージュとして。屋上から飛び降りたり、ベランダから飛び降りたり、"飛ぶ"という。ああいうのは鴻上さん特有の世界だから。そういう意味で面白かったんだよね。手塚さんも仰ってるけど、ハセガワ君は物語が上手いよね。大塚英志風に言うと「物語を母国語」として生きてるから。僕は「物語を外国語」として学んでるタイプだから、まあ観てから脚本を読むと雑なところも発見するんだけど(笑)でもそれで破綻してないのは、太い物語を母国語として生きてるから。雑な所も見事に物語に取り込まれていくというか。物語が演劇の全てではないんだけど、ハセガワくんの特性だよね。

水牛:重さと軽さが調和していて、これは都会的というのか、とてもセンスがいいなあと思いました。以前観たとき(『神様はいない』『片想い撲滅倶楽部』)も思ったんですけど、広がりがある感じで良いと。


ただ印象的なシーンは…臨死体験の絵が出て来るシーンなんですけど、それがなにか微妙な感じで(笑)これが上手いという前提で話が進んで行くんですけど、リアリティとしてどうなのかなと。

カトリ:もっと精神分析療法みたいな、心象風景に近い方がよかったのかもね。

─── 僕としては、あんなにシリアスな話をしたのに羽海野チカみたいな絵を描いてる方が狂ってるなって思ってやってるんですけど(笑)ズレというか。でも、あそこはもっと確実に狂っててもいいかもしれないですね。笑いにズラさないで、シリアスな部分を太くする為にも。

水牛:印象的な台詞は、アシスタントの朝子さん(金沢涼恵)が言う「あたしも好きなんですから!」の一連ですね。
カトリ:「なんでこのタイミングでコクってるんだ」とか、おかしいよね。僕の印象的な台詞は後藤(杉木隆幸)の「中3だから!」だね。中2もやばいけど、中3も確かに痛いなって。

─── MUは、そんなズレた会話ばっかりですよね(笑)

[〆]


以上が議事録の掲載になります。いよいよ、気になる審査結果はこちらです!↓

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鵺的『クィアK』について(審査議事録)


脚本・演出:高木登(鵺的) 出演:今里真・平山寛人(鵺的)・宮嶋美子
□あらすじ□ マンションの一室で、頭の上の箱を乗せた女(宮嶋美子)がいる。それを見つめ続ける男(平山寛人)。女が箱を落とすと、その音を嗅ぎ付けたように、もうひとりの男(今里真)がやって来て、女を「奴隷」だと罵り始める。

手塚:舞台に色、色彩を感じましたね。非常にモノトーンな色彩と言いますか、それが鵺的にしっかりハマっていたんじゃないのかなと。僕は、その、女性を苛めるような芝居はあんまり好きじゃないんですけど・・・

全員:(笑)

手塚:だけど、面白かったです。逆にそこが魅力的だと思いましたね。印象的なのは、宮嶋さんが横たわって本を片付けようとするシーンは、居たたまれない気持ちにあるんだけど逆に色気も感じたりしてですね。奴隷の宮嶋さんが苛められれば苛められるほど、神々しく見えて来るんですよね。

カトリ:凄く面白かったです。脚本もよくて、今里真くんはパラドックス定数(『元気で行こう絶望するな、では失敬。』)でも観たけど良い俳優だね。役者のカラダを通しての台詞が非常に立っていて、そういう意味で脚本の力がよく判るし、演出も手堅いんだけど…『トランス』をもとに考えると当時の80年代と「ゲイ」っていうセクシャリティの問題が本当に変わっちゃったから。最近はLGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスセクシャルの略)が、モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則に基づいて「性的にマイノリティな人たちに当たり前に人権を認めよう」「いかなる差別もいかなる偏見も排除しよう」って、国連の人権委員会でも議決されたわけでね。実際はLGBTの中でも中でも込み入っていて統一がある訳でもない。LGBは性的な嗜好な訳じゃないですか。自分が男が好きか、女が好きかみたいな。それは性的な同一性は壊されてない上に、しかも先天的か後天的かって議論が絶え間なくあるんだよね。心は女だけど、身体は男みたいなものの「ジェンダーセクシャリティ」と「性的嗜好」は別だから一緒にしないでくれって議論もある訳で、非常に複雑な話に成ってる。

そうすると(核心のネタバレのため反転してあります→)今里くんの役が「ずっとゲイだったけど、女を好きになってしまった」っていうところも、じゃあバイでいいじゃないかって(笑)そういうことに突っ込むのであれば、もっと深く背景や現代的な視点も盛り込んで欲しかったなと。「どっちでもOKだよ」って時代になって来てるし。面白かっただけに、いろいろ不満は残ってる。

─── なるほど。

カトリ:印象的なシーンは、(核心のネタバレのため反転してあります→)「好きにすればいいよ。たまに聞かせてくれればいいよ。さっきふたりがやっているところ聞いて、わたし、ちょっと興奮しちゃった。」と「ペニスが生えて来そう」というトランスジェンダーにお互いがなっていくところが面白くて、こういうとこから更に突っ込んでくれれば、もっと面白かったんじゃないかとも思う。この先をもっと観たかったな。

─── たぶん短編だと、自分がそうなる入り口までしか描けなかったんですよね。それとミナモザと同じように"あえて"があるんですけど。劇作のテーマとして、ゲイの人がゲイの話題を持って来るってのはよくあると思うんですよ。でも高木さんはノーマルなのに、"あえて"踏み込んでるってのが面白い視点ですよね。

カトリ:(頷き)マイノリティに対して共感を抱くってのは、芸術のある種の使命だから。書けてるからこそ、もうちょっと先に行って欲しかったなと。

水牛:あんまり深く踏み込みすぎると(観客が)付いて行けなかったり、書いてる本人はノーマルだという前提があるので、本当に深い部分っていうのはゲイの人にお任せすればいいんじゃないのかという気持ちも私にはちょっとあるんですよね。私は「作品全体」をいいと思っていて、そういう甘い箇所もあるけれど、脚本も作品も完成度が高かったです。なかでも鵺的の平山さんを評価していて、とても存在感があった。

印象的なシーンは絵を書いたんですけど、木谷(今里)が奴隷(宮嶋)を抱え込むシーンがまるで腹話術のように見えたんですね。何気ないシーンなんですけど何故かここは目に焼き付いちゃって。この状態で行われる質疑応答も、それもまるで人形のように見えるんですね。

─── 主従関係が滲み出てますよね。

水牛:また平山さんの台詞にはっと思わせる台詞が多くて。木谷(今里)が最初苛立っていて、それが「苛立っている」って判らなくて。なんかこの人だけ浮いた感じで、テンションが高くて変だなと思っていたら、「変だよ」と指摘する台詞が平山さんにあって。それで「変」という状態を演じていたんだと判ったり。

─── なにか観客側が感じているような"違和感"を代弁する役割を果たしていたのかもしれませんね。

水牛:それがリアリティに繋がっていったんだと思います。

ミナモザ『スプリー』について(審査議事録)


脚本・演出:瀬戸山美咲(ミナモザ) 出演:木村キリコ・宮川珈琲・実近順次
□あらすじ□ 両足と右腕を負傷した男(宮川珈琲)が入院していると、深夜にひとりの女医(木村キリコ)が彼の上にのしかかり肋骨を折ろうとする。女医は「理由なんかない」と言い切るが、同じ医者であり元恋人のカサイ(実近順次)がやって来て「その女は病気だ」と告発する。女医はそれを認めず、患者の男を巻き込み出す。

手塚:印象的なシーンはベッドの上に何度も女医が乗りかかって(骨を折ろうと)行くのがなんとも強烈なシーンですよね。逆説的な「愛」もあるし。具体的な台詞というよりもビジュアルを含めた世界観全体の印象が強いです。作家の独自性は出ていたのですが、断片的に感じたのでもっと長編も見てみたいと思いました。

カトリ:「スプリー」って意味は「浮かれ騒ぎ」ですかね? その上で考えると"倫理的じゃない医者"が、さらに病んでいて浮かれ騒ぐってのはとても現代的な恐怖でしょうから、面白かったですね。

─── 瀬戸山さんと『トランス』のときと現状が一番違うのは、精神病の扱い方が変わって「カジュアルになったよね」って話をしてたんですよ。

カトリ:そうだよね、あとゲイの認識も随分変わったしね(『クィアK』)

だから女医の「みんな何かのせいにしているだけなの、何かいやなことがあったら理由に逃げるの。でも理由に甘えてるうちには、何も変わらないのよ。大事なのは過去の理由じゃない。いま目の前にある結果だけ。」って台詞が印象的だったね。そういう意味で、「世界観(&ビジュアル)」に票を入れました。ただ、後半が唐突な気がしてしまって、患者が罪を償って宇宙論的なモノローグを始めてしまうのはちょっと唐突で、あの長さでは難しいかなと。

─── あの劇構造は、プログレロックのように”あえて”入れてあるのかも、と僕は斬新に感じたました。思い切ったというか。

カトリ:あえてだとしても、それまでドカンと面白かったのが、急に独白になってしまい静かに終わっていくってというのが劇構造としても工夫が欲しいかなと。

水牛:わたしも台詞としての面白さは判るのですが、これはコントとしての面白さを求めてるのか? と、それら前半〜中盤で消化しているうちに後半の独白の部分に繋がって行ってしまったのが、やや急かなと。独白も、自分の位置からはでは(ベッドの構造上)顔が見えないし、動きが無いですから。

─── ああ、確かに。下手側からは観辛かったかもしれません。でも、あそこで急に理屈っぽい別役実のようなというか、コント寄りでもあったものが急に変化してしまう不条理さも感じました。

水牛:匙加減ですかねえ。

カトリ:別役さんの名前が出たからいうと、まあ不条理劇自体はコントなんだけどね(笑)最後にもっと不条理があった方が振り切れたかな。

水牛:そうやって振り返ると、やはりオープニングのベッドで患者にまたがっているシーンの「ビジュアル」の印象が強かったですね。これで決めてやろうという意思が見えたし、ドキッとするものがありまして、わたしは木村キリコさん(女医)がかっこいいなと思って追いかけました。