MU『無い光』について(審査議事録)


脚本・演出:ハセガワアユム(MU) 出演:秋澤弥里・杉木隆幸・武田 諭(バジリコFバジオ)・金沢涼恵(クロムモリブデン
□あらすじ□ 臨死体験ルポを連載しているライター・後藤(杉木隆幸)は、中学校の同級生である修造(武田諭)と、同じく同級生のイラストレーターとして活躍する理英(秋澤弥里)を取材するため再会を果たす。しかし、後藤のアシスタント・朝子(金沢涼恵)は、理英の臨死体験は掲載に相応しくないと抗議する。

カトリ:さあ、みんな悪口言おうぜ。

全員:(笑)

手塚:MUは「作品全体」がよかったですね。お世辞じゃなくて、僕はMU、すごくよかった。ただ初日、すごいお客さんがウケていたんだけど、他の日もずっとあんな感じだったの?

─── いや、初日はちょっと…ウケ過ぎですね(笑)僕的にもちょっと自分の手を離れたところで笑いが起きてるなって所もあったし、水牛さんがワンダーランドの劇評で触れていましたけど「ライターがどういう動機かが伝わらなかった」と感じたのは、作者としてはちゃんと書きこぼしてはいないしおかしいな、って思ってたんですけど。それはたぶん初日は笑いに消されちゃったってところもあるんですよ。結構大事なシリアスなシーンでも笑いが起きていたので(笑)次の日からは自然と絞られて行くんですけど、ただ初日はバーストし過ぎましたね。

手塚:僕もそう思った(笑)面白いんだけど、ここまでウケてしまうとコントじゃないんだからと。

─── 笑い自体はすごい嬉しかったですけど。ただ、テーマも「自殺」ですからね…

手塚:だけど全体の作品としてもまとまっていたというか、他の二作品は長編のなかの断片を取りあげたように感じたんだけど、MUは充分、完結してると。やっぱり短編づくりに馴れてらっしゃるんだな、と。印象に残った台詞は、やっぱり「光は無いけど、楽になりたいの?」など「光」なんですね。ただ「光」という単語は前半から沢山出てくるのでもうちょっと押さえても、メインテーマとしても活きてくるんじゃないかと。

カトリ:仰る通り。題名が直接すぎてそこは駄目(笑)

─── え〜と…落語のサゲみたいに、「そういう意味か」ってなるのを狙ったんですけど(笑)

カトリ:まあ、臨死体験の話は面白かったし勉強したんだなって思ったんだけど「中学校の屋上の話」っていうのが、これがなんとも鴻上さんティストでね。鴻上オマージュとしてはこれが一番バカウケした。屋上が出て来たとき。『トランス』だけじゃなくて、鴻上世界に対するオマージュとして。屋上から飛び降りたり、ベランダから飛び降りたり、"飛ぶ"という。ああいうのは鴻上さん特有の世界だから。そういう意味で面白かったんだよね。手塚さんも仰ってるけど、ハセガワ君は物語が上手いよね。大塚英志風に言うと「物語を母国語」として生きてるから。僕は「物語を外国語」として学んでるタイプだから、まあ観てから脚本を読むと雑なところも発見するんだけど(笑)でもそれで破綻してないのは、太い物語を母国語として生きてるから。雑な所も見事に物語に取り込まれていくというか。物語が演劇の全てではないんだけど、ハセガワくんの特性だよね。

水牛:重さと軽さが調和していて、これは都会的というのか、とてもセンスがいいなあと思いました。以前観たとき(『神様はいない』『片想い撲滅倶楽部』)も思ったんですけど、広がりがある感じで良いと。


ただ印象的なシーンは…臨死体験の絵が出て来るシーンなんですけど、それがなにか微妙な感じで(笑)これが上手いという前提で話が進んで行くんですけど、リアリティとしてどうなのかなと。

カトリ:もっと精神分析療法みたいな、心象風景に近い方がよかったのかもね。

─── 僕としては、あんなにシリアスな話をしたのに羽海野チカみたいな絵を描いてる方が狂ってるなって思ってやってるんですけど(笑)ズレというか。でも、あそこはもっと確実に狂っててもいいかもしれないですね。笑いにズラさないで、シリアスな部分を太くする為にも。

水牛:印象的な台詞は、アシスタントの朝子さん(金沢涼恵)が言う「あたしも好きなんですから!」の一連ですね。
カトリ:「なんでこのタイミングでコクってるんだ」とか、おかしいよね。僕の印象的な台詞は後藤(杉木隆幸)の「中3だから!」だね。中2もやばいけど、中3も確かに痛いなって。

─── MUは、そんなズレた会話ばっかりですよね(笑)

[〆]


以上が議事録の掲載になります。いよいよ、気になる審査結果はこちらです!↓



[作品各賞一覧]

“視点” ビジュアル賞:ミナモザ『スプリー』 独自の世界観、インパクトのあるビジュアルや空気の評価に対して


“視点” 総合作品賞:鵺的『クィアK』 脚本、配役、演出、の総合的評価に対して


“視点” 脚本賞:MU『無い光』 ストーリーのある物語性、台詞の評価に対して


に決定致しました!