鵺的『クィアK』について(審査議事録)


脚本・演出:高木登(鵺的) 出演:今里真・平山寛人(鵺的)・宮嶋美子
□あらすじ□ マンションの一室で、頭の上の箱を乗せた女(宮嶋美子)がいる。それを見つめ続ける男(平山寛人)。女が箱を落とすと、その音を嗅ぎ付けたように、もうひとりの男(今里真)がやって来て、女を「奴隷」だと罵り始める。

手塚:舞台に色、色彩を感じましたね。非常にモノトーンな色彩と言いますか、それが鵺的にしっかりハマっていたんじゃないのかなと。僕は、その、女性を苛めるような芝居はあんまり好きじゃないんですけど・・・

全員:(笑)

手塚:だけど、面白かったです。逆にそこが魅力的だと思いましたね。印象的なのは、宮嶋さんが横たわって本を片付けようとするシーンは、居たたまれない気持ちにあるんだけど逆に色気も感じたりしてですね。奴隷の宮嶋さんが苛められれば苛められるほど、神々しく見えて来るんですよね。

カトリ:凄く面白かったです。脚本もよくて、今里真くんはパラドックス定数(『元気で行こう絶望するな、では失敬。』)でも観たけど良い俳優だね。役者のカラダを通しての台詞が非常に立っていて、そういう意味で脚本の力がよく判るし、演出も手堅いんだけど…『トランス』をもとに考えると当時の80年代と「ゲイ」っていうセクシャリティの問題が本当に変わっちゃったから。最近はLGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスセクシャルの略)が、モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則に基づいて「性的にマイノリティな人たちに当たり前に人権を認めよう」「いかなる差別もいかなる偏見も排除しよう」って、国連の人権委員会でも議決されたわけでね。実際はLGBTの中でも中でも込み入っていて統一がある訳でもない。LGBは性的な嗜好な訳じゃないですか。自分が男が好きか、女が好きかみたいな。それは性的な同一性は壊されてない上に、しかも先天的か後天的かって議論が絶え間なくあるんだよね。心は女だけど、身体は男みたいなものの「ジェンダーセクシャリティ」と「性的嗜好」は別だから一緒にしないでくれって議論もある訳で、非常に複雑な話に成ってる。

そうすると(核心のネタバレのため反転してあります→)今里くんの役が「ずっとゲイだったけど、女を好きになってしまった」っていうところも、じゃあバイでいいじゃないかって(笑)そういうことに突っ込むのであれば、もっと深く背景や現代的な視点も盛り込んで欲しかったなと。「どっちでもOKだよ」って時代になって来てるし。面白かっただけに、いろいろ不満は残ってる。

─── なるほど。

カトリ:印象的なシーンは、(核心のネタバレのため反転してあります→)「好きにすればいいよ。たまに聞かせてくれればいいよ。さっきふたりがやっているところ聞いて、わたし、ちょっと興奮しちゃった。」と「ペニスが生えて来そう」というトランスジェンダーにお互いがなっていくところが面白くて、こういうとこから更に突っ込んでくれれば、もっと面白かったんじゃないかとも思う。この先をもっと観たかったな。

─── たぶん短編だと、自分がそうなる入り口までしか描けなかったんですよね。それとミナモザと同じように"あえて"があるんですけど。劇作のテーマとして、ゲイの人がゲイの話題を持って来るってのはよくあると思うんですよ。でも高木さんはノーマルなのに、"あえて"踏み込んでるってのが面白い視点ですよね。

カトリ:(頷き)マイノリティに対して共感を抱くってのは、芸術のある種の使命だから。書けてるからこそ、もうちょっと先に行って欲しかったなと。

水牛:あんまり深く踏み込みすぎると(観客が)付いて行けなかったり、書いてる本人はノーマルだという前提があるので、本当に深い部分っていうのはゲイの人にお任せすればいいんじゃないのかという気持ちも私にはちょっとあるんですよね。私は「作品全体」をいいと思っていて、そういう甘い箇所もあるけれど、脚本も作品も完成度が高かったです。なかでも鵺的の平山さんを評価していて、とても存在感があった。

印象的なシーンは絵を書いたんですけど、木谷(今里)が奴隷(宮嶋)を抱え込むシーンがまるで腹話術のように見えたんですね。何気ないシーンなんですけど何故かここは目に焼き付いちゃって。この状態で行われる質疑応答も、それもまるで人形のように見えるんですね。

─── 主従関係が滲み出てますよね。

水牛:また平山さんの台詞にはっと思わせる台詞が多くて。木谷(今里)が最初苛立っていて、それが「苛立っている」って判らなくて。なんかこの人だけ浮いた感じで、テンションが高くて変だなと思っていたら、「変だよ」と指摘する台詞が平山さんにあって。それで「変」という状態を演じていたんだと判ったり。

─── なにか観客側が感じているような"違和感"を代弁する役割を果たしていたのかもしれませんね。

水牛:それがリアリティに繋がっていったんだと思います。