ミナモザ・瀬戸山美咲さん インタビュー


“視点”では、オーガナイザーとしてお呼びした劇団を、きちんと紹介したいという主旨のもとインタビューを御贈りしています。ミナモザ・主宰、そして脚本・演出家である瀬戸山美咲(せとやまみさき)さんは、念入りな取材をもとに創作する丁寧さと、電気グルーヴで育ったエッジが同居しています。某お嬢様高校を卒業し、演劇がやりたくて早稲田大学に入学したものの3年生まで禁欲的に過ごし勉学に勤しみ、まわりが就職活動や卒論に向かう頃に演劇活動を開始するなど、その独自のタイム感も「真面目さ」が中心にあるような気がします。捻くれた視点も持ちつつ真面目に育ってしまった“東京”の女の子に、ぼくは作品で感じたシンパシーを強めて行きます。オフレコでしか話せない話も絡めてお互い頷きまくる時間でした。  Interviewer & text hasegawaayumu(MU)



■ライターとしての視点もありつつ、卒論で出した本気をずっと出し続けてる。


───ミナモザの戯曲が面白いのは、瀬戸山さんがライター業を普段やってる事が影響しているのかなと。女の子が他人の視線でボディラインが磨かれるように(笑) それと同じようなことが起きてて、文章が常に「他人に見られている」からじゃないのかなって思ってるんです。だからそのライター業と平行してやってるところに非常に興味を持っていて、そもそも早稲田大学を卒業してからどういう経緯でライターになったんですか?

瀬戸山:それまでは普通にアルバイトをしながら演劇をやってて、脚本書くんだったらそれに近い「書く仕事」をと思って、単純にそれですね(笑) それでフロムAとかを見てて、ライター事務所っていうのを見つけて、

───フロムA?!
瀬戸山:フロムAですね。意外と載っています「ライター募集」って。ひとつは『東京ウォーカー』とかやってるところで、もうひとつは怪しい方だったんですけど、そっちに受かって(笑) 『東京ウォーカー』をやってる方には何故かアングラ・サブカル色の強い原稿を送っちゃったせいで駄目で。そうして、週刊誌を中心に連載コーナーを持つようになって、女の子の匿名座談会とかは演劇界の女優に片っ端から取材したりしました(笑) 現在はフリーです。

───ミナモザのHPを見ると、お客さんに「ドキュメンタリーを体感して欲しい」ってキャッチコピーがあって象徴的だなって思いますね。演劇って、ぶっちゃけ取材しない作家って多いじゃないですか(笑) そういうのって僕は寂しいなって感じてて、

瀬戸山:(笑) 等身大の自分は別にもういいんだよ、と。

───そうそう、そうです。背伸びが見えないのは寂しいですから。この前の「振り込め詐欺」のお芝居も(※『エモーショナルレイバー』)用語解説とかパンフレットに結構入れてたじゃないですか? もちろん目を通さなくても充分楽しめるんですけど、あれだけでも本の注釈みたいな楽しさがあって、開演前から面白かったんですよね。あの作品の取材はどれくらいしたんですか?

瀬戸山:さすがに潜入とかまでは出来なかったんですけど(笑) あれはリサーチって感じですね。本、資料、映像を見まくって、あとはエモーショナルレイバー的な仕事もしてきたんで、結婚相談所とか、体育会系なお店とか、それを活かして。これまでも、原発事故の芝居を書いた時は東海村に行ってみたりとかして。なるべく出来る限りのことはするっていう、

───その行動力はいつ頃目覚めたんですか? 編集プロダクション? 早稲田に通ってたときの勤勉さとか?

瀬戸山:うーん、遡ると卒論とかの影響が大きいですね。卒論とかの本気をずっと出し続けてる、みたいな。ともすれば頭でっかちに見られてしまう場合もあるので(淀む)

───大丈夫です(笑)それはお芝居見れば判りますから。ちゃんと血肉になってます。



■女性から見た女性の視点。 前作『エモーショナルレイバー』を振り返る。
※この作品(『エモーショナルレイバー』)は2011年1月に三軒茶屋シアタートラムでの再演が決まっています。一部ネタバレを含みますが大きなネタバレはありません。気になる方は閲覧をお控えください。


───その『エモーショナルレイバー』の話をもう少し聴きたいんですが、途中から「戦争」の流れに行くじゃないですか? 「携帯電話が銃であり」という詩的なものを感じるし、ミニマムな世界を提示していたのに、そこから一気に世代論・世界論にぶっ飛ばしてる気がして、ぼくはすごい気持ちがよかったんです。あれは、もともと戯曲を書いている段階でああいう流れはあったんですか? 書いていたら辿り着いたって感じなのでしょうか?

瀬戸山:・・・えっとですね、でも基本的に世代論に世界論にぶっ飛ばしたいんですよね、なにをやるにしても。なので最初からありましたね。まず最初に「振り込め詐欺」は戦争だと結論付けて。彼らはコミュニケーション能力を武器にして戦ってるだけなんだっていう。

───老人から金を奪い盗ることの後ろめたさを消すために説教とかするシーンも、それも込みで「戦争」なんですよね。

瀬戸山:その辺りは取材していって取り入れた部分もあるんですけど、一番最初にHPに載せたように「男女の違い」の話にしたかったんです。男女の話す言葉は違うよ、とか些細なことから始まって。これは飛んでしまう話になるんですけど、パプアニューギニアとかで民族同士の紛争があって、そこの女たちが産まれて来た男の赤ん坊を殺したって事件があって。自分の子供なのに、でもこの子達が大人になったら戦争をするって言って“殺す”っていう。女の人の飛び越え方っていうか、論理的じゃないんですよね。「人を殺す」ってところで一回スイッチをオフにして飛び越えちゃってて。「戦争が嫌だから子供を殺す」=「人が死ぬのが嫌だから人を殺す」、でもそれってすごい女性的なものの考え方だなって、

───ある程度のところまで論理的なんだけど、倫理ってのが待ってたときに、感情をバネにして飛び越えちゃうんですよね。普通、倫理が邪魔しちゃうんですけど。

瀬戸山:うんうん、そうですそうです。それで男女ってやっぱり全然違うなって思って、それが一番最初の動機ですね。

───「振り込め詐欺が出来るのは男だけだ」っていう物語のなかでのルール、まあ実際にもそうなんでしょうけど、それもそこに結びついて来るんですか?

瀬戸山:そうですね、そして女の子はそういう戦い方をしなくても生きて行けるってのが、自分の実感でもあって。・・・単純にいま生きている若者、男の子がみんな大変そうだなって、勝たなきゃ行けないし。でもいわゆる小劇場だと負けてる側のテーマを描く人が多いから、自分はやりたくなくて。むしろ、自分たちとは頭の構造が全く違う「金が第一主義」な若者を描いた方が面白いと思ったんです。同じ若者だとしても。

───負け組側のテーマは生きてて超えるべき前提だと思ってるから、僕はやらないようにしてるんですけど、例えば「引きこもり」「ニート」「童貞」とかゼロ年代はそれがテーマになり易かったですよね。最近だと若い劇団に「家族劇」が目立つんですが、それも家族って自分の中の宇宙として人間関係が分かり易過ぎるから、個人的にはやらないんですけど。

瀬戸山:あたしも家族劇、一回もやったことないです(笑) でも、役者さんでやりたがる人は多いですよね。

───だから『エモーショナル〜』がリアルに感じた成功点は、「振り込め詐欺」の共同体が家族にならないようにしていたからじゃないですか。異文化の「ギャル」と「真面目なメガネくん」が一緒にいて、「キモイ」とか言われるんだけど反論出来なくて、でも仕事は一緒にして、そういう距離感が金でしか繋がってないってのいうのがあって。でもそれって確実にひとつの社会だと思うんですよ。

瀬戸山:そうですね。あそこまで黒いのは身近ではないですけど(笑) 家族劇は、みんな優しい演劇が好きっていうか、なんだろう(笑) 演じるときに無理しなくていい、自分の知っている感覚である程度成立しちゃいますしね。・・・『エモーショナル〜』は「登場人物が自分たちと一見同じに見えるけど、あんたたちと全然違うものの考え方の人間だからね」って、稽古場で一番最初に宣言しました。「こういう仕事に従事している人間は、どんなに仲良く喋っていても、まわりのことなんか絶対信用してないんだよ」って。そういう事から言わなければいけなくって。そういうのよりは、もうちょっと、フワーってやれる役の方が楽なんだろうなって思います。

───まさに役者自体が『エモーショナルレイバー』ですから(笑) そういうギリギリがいいですよね[〆]

※2010年8月某日、三軒茶屋マメヒコにて。次回はミナモザの新作についてか、オーガナイザーであるハセガワアユムのインタビューを掲載予定です。


瀬戸山美咲 ......//劇作家・演出家・ミナモザ主宰

俳優・木村キリコとの2人の劇団、ミナモザを主宰。フリーライターとしても数々の雑誌で執筆活動をおこなう。綿密な下調べと取材に基づき、リアリティを重視した舞台を作っている。ドキュメンタリーのように鋭く社会をえぐりながら、その先の地平へ飛ぶ作風が特徴。振り込め詐欺集団の姿を描いた『エモーショナルレイバー』(2009年初演)がシアタートラム・ネクスト・ジェネレーションvol.3に選出され、2011年1月の再演が決まっている。 →ミナモザ 公式サイト →個人blog『えもれぱ』 →twitter @misaki1130



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