鵺的・高木登氏 インタビュー

“視点”では、オーガナイザーとしてお呼びした劇団の紹介をきちんとしたい、+ 自分が好きな劇団だったので知りたかった沢山の事柄を、なにからなにまで直球でインタビューしたい、というふたつの欲求を叶えて来ました。鵺的・主宰であり脚本家の高木登(たかぎのぼる)氏に、演劇との出逢いから、脚本家の顔、そして“視点”参加作品『クィアK』について全部触れています。直球! Interviewer & text hasegawaayumu(MU)


■アニメ、実写、演劇。脚本家としての3つの側面。


───すごいプレーンな事から訊きたくて、警察の事情聴取みたくなってしまうかもしれないんですけど(笑)出身と演劇の出逢いなどを教えてください。

高木:出身は東京の門前仲町ですね。いまだに江東区から出た事がない感じです。最近でこそ天井ホールとかありますけど、近所に劇場はそんな無かった。はじめて自分のお金でチケット買って観たのはSET。中学3年生のときにYMOが散開して・・・
───え!YMOとSETって繋がりあるんですか?

高木:YMOの最後のアルバムで『サーヴィス』ってのがあるんですけど、これはSETのコントとYMOの曲が交互に入ってる構成なんですよ。あれです、スネークマンショーみたいな感じです。三宅裕司さんとか小倉久寛さんとかはそれで初めて知った。

───ずるい(笑)それはかっこいいなあ。僕らの世代だと既に岸谷五朗寺脇康文のツーマンの時代でした。じゃあ高校に行って演劇部に入ってっていうベタな展開になるんですか?

高木:いえ、帰宅部です(笑) 暗かったですよ。「サブカル」という言葉がまだなかったころに、サブカルをあれこれ堪能してました。

───じゃあ、その流れだといつ頃にまた演劇と出逢うんでしょうか?

高木:本屋でバイトしてるときに出逢った女優から声をかけられて、台本を書くことになったんです。それが自分が在籍していた劇団の旗揚げになるんですね。自分は映像をやりたかったから演劇を書くとは夢にも思ってなかった。同時期にフジテレビヤングシナリオ賞を受賞するんですが、ほぼ執筆時期は被ってて、演劇と映像が同時に始まったって感じです。演劇から映像に行くパターンでは、芝居が評価されて呼ばれるって流れが普通なのに、同時だから大変でした。演劇ではカルト宗教団体がどうたらこうたらって台本を書きつつ、映像では青春バレーボールドラマを書いている(笑)。コンペだったんですが、どうせ採用されるわけがないと思って、好き勝手書いて・・・暗くて、おなじ部活の仲間に同性愛の子が居てとか、そんなプロット通る訳ないと思って出したら、「これは使えないけど、きみのが一番面白い」って言われて起用されてしまった(笑)。それがデビューになりましたが、まあいろいろあって大変でした。

───ははは、僕も自分の作品を後で映像化したいとやってみて判ったんですが、演劇のロジックと映像のロジックって全然別物じゃないですか。だからそれを両立してるのがすごいなって思います。ちなみに脚本家の方で好きな方や、師事してるって方っていますか?

高木:小中千昭さん。※1 SFとかホラーが好きなので、そういうジャンルに特化して書かれているので、ずっとファンでした。デビューしてしばらくはなかなか思うような仕事が得られなくて、悶々としてたんです。そこで一念発起して、シナリオを添付して小中さんにメールを送ってみた。そうしたら『テクノライズ』(2003年)って作品で呼んでくれたんですね。すごい実験的で面白い作品でした。第一話なんてほとんど台詞がない(笑) 自分の好きな事と仕事が一致して来たのは、それからです。実写で良い出会いは少なかったですが、アニメーションの世界では逆だった。いまでは完全にアニメの仕事が主になりました。

───『デュラララ!』のわたなべりんたろうさんがインタビューした記事を見ても、スタッフ間の仲の良さが滲み出てて驚きました。

高木:あれでも(仲の良さを)そうとう押さえてる(笑) 海外では、まあ80年代が青春だったので、「アンブリン」系。※2 ルーカスやスピルバーグが偉くなって玉石混淆でホラーやSFを量産してたんですけど、そういうのを浴びるように見てました。あとスティーヴン・キングものとか。80年代のジャンル作品は全体的に「軽い」んだけど、それなりに楽しかったし、バラエティに富んでたから。

※1「脚本家・小説家。1961年東京生まれ。代表作に、実弟SF映画監督・小中和哉との映画『くまちゃん』(音楽も担当)、特撮『ウルトラマンティガ』『ウルトラマンガイア』、アニメ『serial experiments lain』などがある。その他にも作品多数。」

※2「アンブリン・エンターテインメントの意。スティーブン・スピルバーグが1982年に設立したアメリカの映画及びテレビ番組製作会社。共同設立者にはキャスリーン・ケネディフランク・マーシャルがいる。アンブリンは、映画製作のみを行う会社で、たとえ自社製作の作品でも自社で映画の配給を行わない。」

■鵺的の発足。現実的とSF的の両輪。



舞台写真『暗黒地帯』at「劇」小劇場(2009年)舞台美術:袴田長武 撮影:安藤和明 写真右:鵺的所属俳優の加藤更果、平山寛人



───鵺的を発足したきっかけを聴きたいんですけど。以前の劇団から独立したきっかけとか背中を押してくれたものとかはなんでしょうか。

高木:それは演出をやっちゃったからですね。劇団を辞める最後の1本が自分の演出だったんで。

───禁断の果実を食べてしまった的な響きが(笑)

高木:やっちゃったんですね。やっちゃった中で興味がそっちに向いて行ったので。演出から舞台美術なども含めて、自分の意向を貫きたいということです。前からいいなと思っていたのですが、東京デスロックの『再生』を観た時にその良さを再認識して、袴田さんに舞台美術を頼んだりしました。※3 同じ劇団に居た平山もちょうどフリーになった時期だったので声をかけて、加藤(現在育児休暇中)も元々フリーだったので、君たち、よかったらいっしょにやらないかと。全員引っ込み思案なんですよ(笑)※4 だから互助組織的に、それぞれの活動がそれぞれのプラスになるようなかたちになればいいなと思いまして。

───鵺的の作風は前の劇団と地続きなんですか?

高木:地続きです。基本的に暗い、重い(笑) 若干変わって来たって意見もありますが。



舞台写真『不滅』at「劇」小劇場(2010年)舞台美術:袴田長武 撮影:安藤和明

※3「舞台美術家・袴田長武さん。現在は“袴田長武+鴉屋”とのクレジットで活動。インタビュアーのハセガワアユムの劇団・MUでも偶然舞台美術を担当。また、数多くの劇団で舞台美術を手掛けており、2010年8月〜10月の担当劇団だけでもplay unit-fullfull、ジェットラグ、電動夏子安置システム、MCR、elePHANTMoon、ぬいぐるみハンター、ほか多数で尋常じゃないペースで携わっている。MU『神様はいない』&『片想い撲滅倶楽部』(2009年)の同時上演の際は、蕎麦屋と結婚相談所をリバーシブルで構築。そのデザインにはいつも魔法がある。」

※4「平山寛人(ひらやまひろと)......//12月1日、鹿児島県出身。養成所修了後、2007年までの机上風景全作品に出演。フリーを経て、鵺的旗揚げに参加。主な出演作は風琴工房『風琴文庫』『機械と音楽』(初演)、JACROW『紅き野良犬』など。」「加藤更果(かとうさやか)......//5月1日、茨城県水戸市生。文学座研修生修了後、フリー。机上風景『乾かせないもの』『幻戯』出演を経て、鵺的旗揚げに参加。」


───僕は、旗揚げの『暗黒地帯』で村上春樹的な「日常の中の冒険」を感じたんですね。加藤さん演じる主婦が、裁判を棒に振ってでも人間の本心だけを訊きに特攻していくじゃないですか。あれは日常の中にある決闘とか、またはそれに疲れてしまった人が曝け出してしまった身も蓋もない行動ですよね。それらが「日常の中の冒険」だとすると、前回の『不滅』では、ある種漫画的、SF的なものを感じたんですね。登場人物のひとりが逮捕されてもおかしくない状況も出てくるんだけど、そこで捕まってしまうと物語が終わってしまうから、それらをひらっと交わして進むというのは『暗黒地帯』と両極端なもの感じたんですね。もしくは途中まで日常だったんだけど、ある部分から新しい方向にシフトしていったようにも見えたし。・・・前の劇団のときは、もともとどちらの作風が主流だったんですか?

高木:これはですね、どっちもやってたんですよ。

───どっちも?器用過ぎます(笑) 僕はてっきり、鵺的を始めたから、このSF的な路線を解禁したのかと思って(頭の中で)ストーリーを勝手に作って訊いてたんですけど、

高木:そういうのは以前から両方やってました。超能力ものもあれば、幽霊ものもあった。ただ、そういう現実離れした漫画チックな展開を取り入れた作品は評が割れます(笑) 現実寄りの方が満遍なく好評ですね。『不滅』は、ある大先輩から「コミックIKKI」に連載してもいいかもね、などと誉めていただきまして。なるほどなるほどと。

───そうですね。尖ってる雑誌だし、映画の『セブン』や大塚英志の『サイコ』みたく、毎週死体にメッセージがあって連載されても面白いですよね。『デビルマン』的なダークヒーローの要素もありますし。ちなみに今回の“視点”でやる『クィアK』はどっち寄りなんですか?

高木:これはもう完全に現実寄り。30分(上演予定時間)だと大きく飛べない、かなと。一幕ものですし。書いているといろいろ思いつくので、最後までどうなるか判りませんが。

───高木さんは、映像やアニメの脚本だとプロットを作ってるじゃないですか。でも演劇だと「ノープロット」で挑むというのは、タガが外れるって感じなんですか? 自由に解放するぞ!みたいな。

高木:うーん、演劇はそういうやり方でやって来たので、特に意識せずに。前の劇団からそうですね。

───ノープロットの演劇って、なんか匂いがするじゃないですか。あ、これはノープロットだなって。だけど高木さんはプロットがあるような感じで進んでるのに、ノープロットって言うから「え!」ってなるんですよね。

高木:(笑) それは言われます。

───だからそれは、普段、脚本でプロットを作る仕事をやってるから無意識的に染み付いてて、それが戯曲でノープロットだとしてもロジックとして成り立ってしまうのかなって。お話聞いてて思いました。

高木:プロットを決めちゃうと書けないんですよね。舞台設定とか、シチュエーションとか、とりあえず漠然としたイメージがある。それを頭の中で観察するように書くんです。ここで何が行われているんだろうかって自分でも全然判ってなくて。一体この人たちは何なんだろうと、そこから産まれるやり方。現在『クィアK』は、人物関係が出来て来ていて、今里くんと宮嶋さんは夫婦であり、平山くんは今里くんが買っている男娼であると。女房の前でいちゃついたりとか、あんまり悪い役を振られない今里くんには、かなり悪い役をやってもらおうと思っています。

───めちゃめちゃ倒錯してるじゃないですか(笑) 障りだけ聴いても面白そうなんでイベント主催として非常に楽しみにしています。[〆]


※2010年8月某日、恵比寿。ひとり忙しそうなマスターの居る喫茶店で。次回はミナモザ・瀬戸山美咲さんのインタビューを掲載予定です。


高木 登 ......//脚本家・鵺的主宰

1999年『ストーカーズ・ア・ゴーゴー』で第11回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作受賞。2000年『ようするにわたしたちは愛しあっている』で第9 回シナリオ作家協会新人シナリオコンクール準佳作受賞。劇団活動を経て、鵺的を発足。硬質な物語構造をそなえた劇作を通じ、アクチュアルな題材を悪夢的に描くことを特徴とする。現代社会の歪み、そこに生きる人間の姿、新しい人間関係の在り様などを、時に大胆に、時に繊細に積み上げていく綿密な構成は、独特の執筆方法で行われている。鵺的 公式サイト →個人blog『日日鵺的』 →youtube(動画)


“視点”vol.1 Re:TRANS、前売チケット発売中。
オープニングパーティーのある初日(21日)、DJに福原冠くんが決定しました。彼が来るとステージが素敵になるラッキーボーイです。終演後に気兼ねなくユル〜く楽しんで下さい。1ステージ限定60席です。チケット予約フォームはこちら。

本公演は、アンケートや投票を活かした「コンペティション」な企画です。観客と相乗効果で盛り上がりたいと思っていますので、演劇口コミサイト「CoRich!」にある「観たい!」コーナーへの応援もお待ちしています。現在、続々と増えて来ています!ありがとうございます。
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