MU・ハセガワアユム インタビュー


"視点"では、オーガナイザーとしてお呼びした劇団をきちんと紹介したい、という主旨のもとインタビューを御送りしてきましたが、最後はいよいよ本イベントの主催であり、MUの主宰・脚本・演出でもあります、わたくしハセガワアユムが不肖ながらインタビューに応えております。MUの来歴についてはHPでも覗いて頂いて、今回は"視点"という企画そしてテーマである『Re:TRANS』について触れてみました。聞き手は俳優でもあり、MUでのアシスタント経験のある古屋敷悠さんにお願いしまして、ギリギリの時間のなか”視点”とはどういった視点で生まれた企画なのか、突っ込んでもらいました。御興味湧きましたら劇場までぜひ。あ、ギャラリーか。いよいよ9月21日からです。お待ちしています。 Interviewer furuyashiki yu & text hasegawaayumu(MU)



■演劇業界の強迫観念のある慣習の間を縫うイベントでありたい。


───では、まず『視点』というイベントを考え付いたきっかけについて教えて下さい。

アユム:演劇業界だけの特殊な慣習だと思うんですけど。半年に一度は長編新作をやるという暗黙の了解みたいなものがあって、それがすごく嫌で、小説家のように長編の合間に短編を発表するMUを始めたんですけど、最近はそれすらも嫌になってきてしまって(笑) 

───えー(笑)

アユム:まあ何故嫌かというと、最近はずっと映画を撮りたくて準備してるんですね。だけど、演劇業界を完全にお休みってのも嫌なので、イベントだったら各劇団の負担を少なくしてやれるんじゃないかと。ただ結果的にいつもくらい大変なんですけど(笑) 違う大変さだから、楽しんでやれてる感じです。あと、プロデュースやキャスティングにおいてMUの「プロデューサー能力」を褒められることが多くって。まあ僕自身が偉い人に選ばれたいという気持ちの方が強いんですけど、そういうことを偉い人に言ったら、「君はちゃんとしてるんだから、君がプロデューサーになりなさいよ」って言われて(笑) 「偉くなりたいんすけど…」って言ったら、「お前が偉くなりなさい」みたいに言われるって、どんな『踊る大捜査線』だ、みたいな(笑)

───ははは、和久さんですね。

アユム:まあネガティブ一周してポジティヴな人間なんで、じゃあ一度本気でプロデュースをしてやろーじゃねーかと。ミイラ取りがミイラというか…偉いおじさんに買われたい俺が偉いおじさんを成らざるを得ないという…

───複雑ですね(笑) じゃあそれを踏まえた上で『視点』は具体的にどういうイベントにしようと思ってます?

アユム:Mrs.fictions主催の『15 minutes made』とか既存で素敵なイベントはあるんですけど、僕がやるなら15分じゃ足りない気がしていて、もっとじっくり見せたいと、MUの初期の短編と同じくらいの時間にしています。30分〜40分で連ドラ一話分みたいな。あと『15 minutes made』の事では全く無いのですが、たまによくある有名な劇団を集めただけのショーケースとか、なんか売名行為やお金儲け目的のイベントでは全然ないです。プロデューサーとして、本当に自分がいいと思う劇団をセレクトして届けたいっていうのがあります。対バン形式であり、コンペティション形式ではあるんだけど、実のところ全部の劇団を好きになって欲しい。勝間和代的に「Win-Win-Win」みたいな。

───勝間さんより「Win」が一個多いですけどね。そのミナモザと鵺的を選んだ理由も知りたいです。

アユム:純粋に、2009年に観た舞台で面白くてシンパシーを抱いた2作品が、ミナモザの『エモーショナル・レイバー』と鵺的の『暗黒地帯』だったんですよね。それで両劇団とも基本的に年一回公演ってペースなんです。ミナモザの瀬戸山さんはライター、鵺的の高木さんは脚本家という劇団主宰とは別の顔があって。そのなかで上手く演劇と並走している、非常に大人なスケジュールなんですけど。ただ、演劇界の強迫観念な慣習からすると、まあスローペースに見えてしまうところもあるだろうし。MUでやってる「短編」みたいな機会を提供出来たらっていう動機もあります。それがプロデューサーとしての僕の役割かなと。自称・演劇界のトニー・ウィルソンとしては。


■『Re:TRANS』について、また新作『無い光』との共通点。


───イベントのテーマである「Re:TRANS」(鴻上尚史氏・著『トランス』への返信を意識した、少人数での舞台作品をつくる)は、どうやって生まれたんですか?

アユム:それが面白いんだけど。イベントは先に決定していて、企画性やルールを探していた時に、ちょうどMUファンの方から「ハセガワアユム演出の『トランス』が観たいので上演してくれませんか」ってメールが来たんです。

───え、偶然ですか?

アユム:本当に偶然。で、これは天啓だと思って。『トランス』は高校生の頃に読んでいて、鴻上尚史さんの存在を知ったきっかけだったし、戯曲にも思い入れはあったし。前回のMUの公演(『めんどくさい人』)のパンフレットで公言した通り、僕は“三角関係”が好きだから、『トランス』の3人もそれにハマったんですよね。例えば、アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』やイギリス映画の『シューティング・フィッシュ』とか、隠れた邦画の名作だと『Lie Lie Lie』(中島らも・原作)とか、ほかにも…

───『三国志』もそうですね。

アユム:それは違いますね(笑)すんごい大枠では合ってますけど(笑) 

───すみません…。“三角関係”以外に感じた魅力も教えてもらえますか?

アユム:『トランス』はその上演回数の多さに、本来の戯曲があるべき姿を感じました。演劇は記録に残りにくいし、映像に残しても伝わらないなんてイジワルな意見もあるなかだと、結局は「戯曲が上演され続けること」が戯曲にとって本来の正解なんじゃないかなって。だったら、それを目指したいというチャレンジ精神ですよね。演劇やってる人は…本当はみんなそう思ってるんじゃないのかなあ。「誰かにやって欲しい」という想い。「観て欲しい」と同じくらい「やって欲しい」って想いを。

あと、とにかく後半の展開がスリリングなんですよね。『エヴァンゲリオン』とかの全然前だったし。80年代の演劇に破天荒なのが多いって言っても、この視点が切り替わっていくサスペンス的な展開は独特だと思うし。ただの滅茶苦茶じゃないから。それでいて約2000回以上もいろんな劇団で上演されているという事実がすごく興味深い。一般的には「スタンダード」って起承転結のはっきりした、分かり易い、それこそ三谷幸喜さんみたいな誰が観て判り易く愛される作品が「スタンダード」じゃないですか。だから演劇のカウンターカルチャーとしての正しさを感じますよ。

───確かに『トランス』は、全体の「わかりやすさ」と「わかりにくさ」のバランスが絶妙ですよね。程よく解り易くて、程よく解りにくい。

アユム:それ、今回の"視点"で審査委員をやってくれる劇評家のカトリヒデトシさんも全く同じこと言ってた。カトリさんと古屋敷くんは、別に示し合わせてたわけでもないし、世代も二周りくらい違うのに、同じ感想が出て来るってすごいよね。

───逆にミクロな視点では、印象に残ってるシーンとかはありますか?

アユム:ベタだけど、屋上で主人公たち3人が話すシーンが好きですね。あの関係性…なんて言ったらいいんだろう。三角関係なんだけど、彼らは恋愛関係では無かったじゃないですか。友情で繋がってる。だけど、それは固執的あり変質的であり、

───依存じゃないですか?

アユム:依存ね…。うーん、その依存すらも、僕には友情に見えるんだよね。恋愛だともっとはっきりとした断絶や別れがあるんだけど、友情ってそれができない。特に「一緒に居たい」からこそ恋愛に出来ず、友情にしてしまって依存するというのは、十代の頃の僕にはすごく切実だったし。…恋愛のスタンスとか精神病は時代とともに変わってくけど、実は友情って一番普遍で不滅な気がする。だからスタンダードになってるのかなとか、いまふと思ったけど。

───アユムさんにとって『トランス』は「友情」がテーマということですか。

アユム:そうですね。新作『無い光』の裏テーマも「きみは友達を失ったことがあるかい?」なんで。…ムッシュかまやつさんの『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』って名曲があって、最近それに曽我部恵一さんが、粋なインスパイアっていうか、これまた『パリに行ったことがあるかい?』ってアンサーみたいなのをやってて。じゃあ俺もっていう。ムッシュかまやつ曽我部恵一→MUという連鎖を勝手に。

───なんですかそれ(笑)

アユム:スタンダードを目指すということですが、なんかいつものMUよりは相当ざっくりとラフな感じになっちゃいました(笑)まあ新感触でいいんじゃないかなと。臨死体験のインタビュー現場で話す「臨死体験で感じた光」が中心なんですけど、暗くなり過ぎず、ふざけすぎず、自分なりの会話劇というか会議劇というか、不思議な感触です。この前、合同通し稽古で3劇団を通してみて順番決めたんですけど、MUが比較的ファニーな部分が多いので一番最初が妥当かなと。自分もビターな自覚はありましたけど、みんなもっとビターだったから(笑) フライヤー通りの「MUミナモザ鵺的」の並びで、こうファニーからビターの濃度が徐々に濃くなって行く順番でやります。どうぞお楽しみに。[〆]


※2010年9月某日、下北沢某カフェにて。[おまけのポッドキャスト]Aga-risk Entertainment主宰の冨坂友さんとMUのハセガワアユムが「ギャラリールデコでの公演形態」について対談しています(約40分)http://tinyurl.com/2d7yz4y
※公演順序が変更になりました!詳しくはこちらをどうぞ。素敵な企みです。


セガワアユム ......//劇作家・演出家・ナレーター・プロデューサー・MU主宰

俳優として活動後"MU"を立ち上げる。所属俳優を持たず、公演毎に作品至上主義のキャスティングを心がける。またナレーターとしても活動しており、俳優が「声に出して読みたくなる台詞」を書くのはその影響が大きい。緊張感と不況が続くなか「メッセージがいらないなんていらない」という考えが物語に内在する。『戦争に行って来た』(2007年)で、文芸社ビジュアルアート星の戯曲賞を受賞。本イベント“視点”ではオーガナイザーを務める。 →MU 公式サイト →MU-blog →youtube(動画) →twitter



“視点”vol.1 Re:TRANS、前売チケット発売中。
[雑誌掲載情報]9/2発売のシアターガイド10月号に『視点』の公演情報が、なんと写真付きで掲載されています。また、9/9発売の演劇ぶっくにも同じように写真付きで掲載されますので、ぜひチェックを!

[濃く読み易いと評判の“視点”メンバーのインタビュー]鵺的・高木登さん →ミナモザ・瀬戸山美咲さん

ポッドキャストAga-risk Entertainment主宰の冨坂友さんとMUのハセガワアユムが「ギャラリールデコでの公演形態」について対談しています(約40分)http://tinyurl.com/2d7yz4y

[チケット情報など]オープニングパーティーのある初日(21日)、DJに福原冠くんが決定しました。彼が来るとステージが素敵になるラッキーボーイです。終演後に気兼ねなくユル〜く楽しんで下さい。1ステージ限定60席です。チケット予約フォームはこちら。

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本公演は、アンケートや投票を活かした「コンペティション」な企画です。観客と相乗効果で盛り上がりたいと思っていますので、演劇口コミサイト「CoRich!」にある「観たい!」コーナーへの応援もお待ちしています。