ミナモザ『スプリー』について(審査議事録)


脚本・演出:瀬戸山美咲(ミナモザ) 出演:木村キリコ・宮川珈琲・実近順次
□あらすじ□ 両足と右腕を負傷した男(宮川珈琲)が入院していると、深夜にひとりの女医(木村キリコ)が彼の上にのしかかり肋骨を折ろうとする。女医は「理由なんかない」と言い切るが、同じ医者であり元恋人のカサイ(実近順次)がやって来て「その女は病気だ」と告発する。女医はそれを認めず、患者の男を巻き込み出す。

手塚:印象的なシーンはベッドの上に何度も女医が乗りかかって(骨を折ろうと)行くのがなんとも強烈なシーンですよね。逆説的な「愛」もあるし。具体的な台詞というよりもビジュアルを含めた世界観全体の印象が強いです。作家の独自性は出ていたのですが、断片的に感じたのでもっと長編も見てみたいと思いました。

カトリ:「スプリー」って意味は「浮かれ騒ぎ」ですかね? その上で考えると"倫理的じゃない医者"が、さらに病んでいて浮かれ騒ぐってのはとても現代的な恐怖でしょうから、面白かったですね。

─── 瀬戸山さんと『トランス』のときと現状が一番違うのは、精神病の扱い方が変わって「カジュアルになったよね」って話をしてたんですよ。

カトリ:そうだよね、あとゲイの認識も随分変わったしね(『クィアK』)

だから女医の「みんな何かのせいにしているだけなの、何かいやなことがあったら理由に逃げるの。でも理由に甘えてるうちには、何も変わらないのよ。大事なのは過去の理由じゃない。いま目の前にある結果だけ。」って台詞が印象的だったね。そういう意味で、「世界観(&ビジュアル)」に票を入れました。ただ、後半が唐突な気がしてしまって、患者が罪を償って宇宙論的なモノローグを始めてしまうのはちょっと唐突で、あの長さでは難しいかなと。

─── あの劇構造は、プログレロックのように”あえて”入れてあるのかも、と僕は斬新に感じたました。思い切ったというか。

カトリ:あえてだとしても、それまでドカンと面白かったのが、急に独白になってしまい静かに終わっていくってというのが劇構造としても工夫が欲しいかなと。

水牛:わたしも台詞としての面白さは判るのですが、これはコントとしての面白さを求めてるのか? と、それら前半〜中盤で消化しているうちに後半の独白の部分に繋がって行ってしまったのが、やや急かなと。独白も、自分の位置からはでは(ベッドの構造上)顔が見えないし、動きが無いですから。

─── ああ、確かに。下手側からは観辛かったかもしれません。でも、あそこで急に理屈っぽい別役実のようなというか、コント寄りでもあったものが急に変化してしまう不条理さも感じました。

水牛:匙加減ですかねえ。

カトリ:別役さんの名前が出たからいうと、まあ不条理劇自体はコントなんだけどね(笑)最後にもっと不条理があった方が振り切れたかな。

水牛:そうやって振り返ると、やはりオープニングのベッドで患者にまたがっているシーンの「ビジュアル」の印象が強かったですね。これで決めてやろうという意思が見えたし、ドキッとするものがありまして、わたしは木村キリコさん(女医)がかっこいいなと思って追いかけました。